時間に余裕ができた私は、
久しぶりに本をたくさん読むようになりました。
選ぶ本は、自然と食エッセイ(随筆)や、
食にまつわる小説が中心で。
「おいしい」の一言ですませてしまえる感覚を、
選び抜いた言葉を使い、
工夫をこらして表現する食エッセイや小説の数々。
読むうちに、ふつふつと元気がわいてきました。
パンのひとかけら、スープのひとしずく。
小さなものですら、いとおしくなりました。
身体感覚が研ぎ澄まされていくかんじ、というか。
たとえば、
「キウリの青さから、夏が来る」
これは、太宰治の小説「女生徒」の冒頭の一節。
夏の初めに、ポリッとかじるキュウリ。
それは、とびきりみずみずしくておいしい。
青い風味がさわやかで、気分もすきっとします。
でも、なぜか胸がうずくようで、ちょっぴり痛々しい。
そして、突然春の浮いた気分から断ち切られたような、
そこはかとない悲しさも感じます。
これは、そんなえもいわれぬ感覚を見事に言い切った名文。
ごくありふれた単語の羅列で。
しかも、たったの一文で。
私は、言葉の力をまざまざと見せつけられました。
「言葉の力を使って、人の心を動かす仕事がしたい」
「食の楽しさや奥深さを、言葉の力で伝えたい」
心の底から、そう思いました。
そして、たまらないほど書きたくなりました。
そこで、まずは手始めに食べ物ブログをスタート。
少しずつ読んでくださる方も増え、
いろいろな感想を寄せてくださるように。
そんなときに見つけたのが、
地元タウン情報誌の、「フリーライター募集」の広告。
そして2005年、28歳のとき、
私はフリーランスのライターになることを決心したのです。 |